リンパ&セラピーの概要
これまでのLessonでは、リンパと循環系に関する知識と歴史、マッサージの歴史について学んできました。概要をまとめると以下のようになります。
- リンパは細胞から老廃物を回収し、体外に排出する。
- リンパは体内に侵入した細菌やウイルスを駆逐する。
- リンパが滞るとこれらの機能が正常に働かなくなり、むくみやリンパ節の腫れといった症状として現れる。
- 人々はリンパの効果を解き明かすために研究を続け、手技療法によってリンパを適切に流すための方法を考え続けてきた。
リンパのセラピーの目的と方法論がはっきり見えてきたのではないでしょうか。リンパ&セラピーの目的は、美容と健康を保つために滞ったリンパの流れを改善することです。その目標を達成するための方法として採用されるのが、リンパドレナージュなどの手技療法です。
したがって、後は「身体の各部位をどのように指圧すればにリンパを流せるのか」という知識を身につければ、セラピーを行うために必要なものはほぼ手中に収めたといっても過言ではありません。
今回のLessonでは、いよいよ手技療法の理論について学んでいきます。
でもその前に、セラピーを行うために必要となる前提知識について、まずはお話しておきたいと思います。
リンパ&セラピーに必要なもの
強い力で施術するべき?
みなさんはマッサージのお店に通ったことがありますか?
肩や腰のこり・骨盤の歪みなどを改善するために、整体に通ったりマッサージのお店の暖簾をくぐったりしたことがあるならご存知かと思いますが、こわばった筋肉をほぐすために物凄い力がかかっているのを感じたこともあるかと思います。
でも翌日にはすっかり楽になっていたりするんですね。そのような経験を経て「痛気持ちよさ」が癖になってしまったり、痛ければ痛いほど効果があると認識してしまう方も大勢いらっしゃいます。
でも、リンパと筋肉は別物です。
固い筋肉をほぐすためなら、確かに強い力で指圧したりするのはとても有効な手ではあるのです。実際に、リンパ&セラピーをする場合でも、患部周辺の筋肉をほぐすために強い力をかけることはあります。けれど、リンパ管に対して強い力をかけるのはNGです。
リンパはデリケート
理由をご説明しましょう。リンパ管もそれを覆う肌も、本来とてもデリケートなものです。強い力を加えれば細胞が壊死してしまうこともありますし、施術の結果として肌にシミができてしまっては一大事です。また、なにより恐ろしいことに、重要なリンパ節が集まっている場所には大事な神経が通っていることも多いのです。
Lesson4-4で確認したとおり、国家資格を有していなければマッサージの看板を掲げて医療行為を行うことはできません。しかし、手技療法に明確な定義がない以上、民間療法としてマッサージに類似する手技療法を行うことは誰にでも可能です。その結果として、一部の整体やカイロプラクティックでは、あまり知識のない人間が施術することもあり、重大な事故につながることがあるのです。
たとえば「腰を治すために整体に通ったら骨折してしまった」「マッサージ店で首を揉んでもらったらあまりに力が強すぎて頚椎捻挫を引き起こした」など様々な事例が、年間100件を越えるペースで国民生活センターに寄せられています。特に腰と首肩の被害を訴え出る人は多く、強い力での施術は百害あって一利なしということが良く分かります。たとえリンパ節周辺をほぐす必要があるとしても注意深く行わなければなりません。
リンパ節周辺の筋肉以外――リンパ&セラピーの対象とする液体や管は、なかなか目に見えるものではありませんので、強い力を加えるとどうなるか、想像するのは難しいでしょう。その場合は同じ循環系の血管を思い浮かべてみてください。大動脈や静脈、目に見える血管を上から強く指圧してみるとどうなるでしょうか。なんとなく想像できるのではないでしょうか。
そう、リンパ&セラピーの場合、あまり強い力を加えて指圧するべきではありませんし、本来なら強い力をかける必要もないのです。ただし、弱い力で施術するためにはコツがあり、そのためにはいくつかの小道具を用意する必要もあるでしょう。
次回のLessonでは、リンパ&セラピーに必要な小道具をいくつかご紹介しましょう。