Lesson4-1 マッサージとは何か

リンパ&セラピーに必要な知識

リンパ&セラピーの要点は、身体の中で滞っているリンパを適切な方向に流して健康状態を改善することです。そのためにはリンパそのものに関する知識リンパ系や循環系に関する知識、そしてリンパを適切に流すための手技療法の知識が必要です。

今回のLessonでは、最後の一つとなる手技療法に関する知識を学んでいきます。日常的によく聞く言葉であるマッサージ、日本で古くから行われてきた按摩など、さまざまな手技療法の基礎を押さえましょう。

代表的な手技療法――マッサージとは

手技療法の代表的なものといえばマッサージですが、そもそも”massage”(マッサージ)という言葉は、アラビア語の”massa“(触る、揉みこむ)、ギリシャ語の”massein“(揉みほぐす、揉む)から来ていると言われています。語源からしてマッサージは「身体に触れて」「揉みほぐす」ことを意味していることが分かりますね。

そのために使用するのは身体の一部である「」です。世の中にはもちろん足を使ったマッサージも存在しますし、機械や電磁波を使ってコリをとったりすることもありますが、主流が「手」を使うものであることに変わりはありません。

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日本でも古くから「手当て」という言葉があるように、治療というものは元来手を使うものでした。皆さんも子どものころ、お腹や頭が痛いとき、両親にそっと手を置いてもらった経験もあるでしょうか。手を通して伝わる体温の温かさを感じたり、患部への刺激によって調子がよくなったことは? マッサージはそうした「手当て」から発生したものなのかもしれません。

ちなみに、マッサージは主として患部の末梢から中枢へ向けて施すもので、静脈系やリンパ系の還流を改善する効果があります。西洋式のマッサージはおおむねこの方法論を用いていますので、手のひら全体を使って緩やかに血液の流れを改善していくような施術となります。

一方、按摩などの遠心性の手技療法は、中枢から末梢へ向かって作用させるものです。こちらは生体の調子を整えるのみならず、血流や気の流れを改善して健康な状態を目指すものとお考えください。

また、按摩は直接皮膚に触れず着衣の上から施術を行います。素肌に触れるマッサージとの大きな違いは、このくらいでしょうか。

リンパドレナージュとは?

リンパマッサージやリンパ&セラピーの現場では、よくドレナージュという言葉が使用されます。

ドレナージュとはもともと「排出」という意味で、もしリンパドレナージュをそのまま日本語に訳すなら「リンパ液の排出」となるでしょうか。

ただし、リンパドレナージュという言葉がその通りの意味で使われるのはかなり珍しいことです。20世紀以降、リンパドレナージュは「リンパを適切に排出し健康を促進するための手技療法」の意味合いで使われています。辞書的な言い方をすると①本来の意味「リンパの排出」、②①から派生した手技療法といったニュアンスでしょうか。

立役者エミール・ヴォッダー博士

施術法としての「リンパドレナージュ」を考案したのはフランスのエミール・ヴォッダー博士(Emil Vodder)とその妻であるエストリッド(Estrid)です。ヴォッダー博士はもともとフィジカルセラピストでしたが、ある日リンパドレナージュという手技療法を作るきっかけを得て、その手技を洗練させていくことに熱を上げました。

彼がリンパドレナージュに目覚めたきっかけは、鼻炎で訪れた患者への治療でした。この頃にはもうすでにリンパに関する研究も進んでいますし、彼がリンパについて正しい知識を得ていたとしても不思議ではありません。患者のリンパ節が腫れていることに気付いた彼が、患部をマッサージしてみようと思い立ったのは、けっして不自然なことではなかったでしょう。

結果として患者の症状は軽減し、ヴォッダー博士は「停滞しているリンパ液を排出すればさまざまな病気に使えるのではないか」と考え、研究を続けていきました。

そうして考案されたのが「ヴォッダー式マニュアルリンパドレナージュ」です。現代のリンパ&セラピーやリンパのケアの現場で用いられるマッサージの基礎となるもので、ソフトタッチでリンパ液を流すのを特徴としています。

その後、リンパドレナージュは浮腫の治療に用いられるようになり、正式な医療として採用されつつ、フランスを中心に世界各国へ広まっていきました。