Lesson4-2 手技療法の歴史

マッサージの起源?

身体を揉みほぐすという行為それ自体は誰にでもできることですから、世界で一番最初にマッサージを行ったのは、どこかの名もない人かもしれません。少なくとも、特定の誰かが名前をつけて広めた施術法とは言いがたく、世界各地で自然発生的に行われていたのでしょう。

体調の改善を目的とした手技療法が紀元前から行われていたことは、

  • エジプトの遺跡に足を揉む壁画が存在する
  • 古代中国の医学書「黄帝内経」に「観趾法」に関する記述がある(観趾法とは足の裏を刺激する健康法のこと)
  • 紀元前のインドにおける伝統的医学「アーユルヴェーダ」の文献にもマッサージと思しき記述がある

……といった発見から明らかです。一説には紀元前3000年頃からすでに中国ではマッサージに類する治療が行われていたとも言われています。

ヒポクラテスの登場とマッサージの伝達

本格的にマッサージが広まったのは古代ギリシャ、ローマ、エジプトです。

特に古代ギリシャでは紀元前4~5世紀頃に、Lesson3でも触れた医学の父・ヒポクラテスがマッサージをすすめています。彼は「医師たるものは医術についてのあらゆる学理とともに、マッサージも修得せよ」と力説し、いくつかの論文もしたためました。

しかし、ヒポクラテスのすすめにも関わらず、マッサージはあくまで民間療法にとどまりました。ギリシャを併呑したローマ帝国でも、オイルマッサージに関する研究が行われなかったわけではありませんが、その後の歴史を辿ると宗教弾圧により下火になってしまったことが分かります。マッサージの質的な発展については、リンパ同様に16世紀フランスにおける復活を待たねばなりませんでした。

ただし、長い間西洋で研究されてこなかったとはいえ、民間療法としては行われていましたし、横の広がりまで停滞していたわけではありません。世界のマッサージの流れを見るに、その技術を持った国が版図を広げたり、交易を行ったりする過程で伝えられたことは珍しくないようです。

たとえばローマ帝国の版図の拡大にしたがい、中近東のアラビア医学にマッサージの技術が流入します。インドのアーユルヴェーダと中国の漢方はやがて仏教医学を生み出し、そこからタイ式マッサージが派生することになりました。中国から日本へは鍼灸導引按摩という形で伝えられています。

そうして16世紀後半、ついにフランスでマッサージが復活することになるのですが、その立役者となったアンブロワーズ・パレ、そして18~19世紀にスウェーデンでマッサージの基礎を作り上げたパー・ヘンリック・リンといった主要な人物に関しては、次のLessonで扱うことにしましょう。